水を汲んだり、ご飯を入れたり、浴槽になったり…。さまざまな場面で活躍する木製の桶は、かつて日本の生活に欠かせない日用品のひとつでした。江戸時代には各家庭に必ずあるものとして普及していたそうです。現代はプラスチック製品が台頭し、目にする機会が減っていますが、プラスチックにはない木の温もりを感じられることから、今も根強い需要があります。そして、丈夫さや格好のよさ、水を止めるという機能を持つ木製の桶の制作には、熟練した高い技術が求められます。
寿司桶ができるまで
丸太から製材して乾燥させる
丸太のまま仕入れたサワラの木を板状に加工(製材)し、乾燥させます。水分を豊富に含んでいる生木(原木から製材したばかりの木)は、乾燥によって変形や収縮が起こるため、製品化してから乾燥すると不具合が生じてしまいます。そこで、製品化する前に十分に木材を乾燥させておく必要があります。木材に含まれる水分量を表す指標として「含水率」があり、サワラの生木は150%ですが、これを「乾燥釜」という特殊な釜に入れて15%以下まで乾燥させます。
なお、サワラの木は水にきわめて強く軽い上に、香りがまろやかで、余分な水分も吸収してくれるため、ご飯を入れる寿司桶やおひつなどにちょうどよいとされています。
均一の駒をのりづけする
専用の機械で駒(桶の周りの側板)を切断します。どんな桶も円筒形なので、駒の切断面が直角のままで、くっつけても桶になりません。そこで、駒に少しだけ角度をつける必要があります。この微妙な角度は、職人の熟練の経験と感覚に寄ります。そして、細かく刻んだ駒をのりづけし、3時間置いて固定させます。
ろくろを使って桶の内側と外側を削る
のりづけした駒をろくろ(回転させる土台)に設置して回し、機械に備えたカンナで内側と外側を削ります。
削り残しを手直しする
削り残した部分や逆目は職人がカンナで丁寧に手直しします。
箍(たが)をはめ、底板をはめ込む
溝を掘って箍(金属製の輪)をはめ、底板をはめ込みます。箍は強度がある銅製が主ですが、最近では丈夫なステンレス製のものも見られます。この箍を締める力の入れ具合は桶の大きさによって異なり、強く締めると桶が歪んでしまい、緩いと箍が落ちてしまいます。これも経験で覚えていくしかありません。
完成
寿司桶の完成です。サワラは水に強く耐久性もありますが、丁寧に取り扱うことでより長持ちします。また、使い込むことで黒ずみが出てきたり、底板が下がったり、箍が緩んでしまった場合は職人が修理をすることもできます。
応用した方法で、こんなものも作れます
湯桶
入浴や洗面のために用いる日本伝統の木製の桶「湯桶」。柄がついた小さめのものは片手湯桶(かたてゆおけ)と呼ばれます。
木風呂
木肌が緻密で光沢があり、耐水性があって独特の香りが特徴的なヒノキやコウヤマキといった高級材を使った木製の風呂は人気があります。
おひつ
炊飯器がなかった時代は、釜で炊いた米を「おひつ」に移していました。しかし、木が米の不要な水分を吸収してくれる上、ご飯が冷めると水分を補ってくれることから、最近は再びおひつが注目されています。
取材協力
志水木材産業 志水弘樹さん
創業が昭和19年。ちょうど70歳。設立が昭和30年。南木曽町出身。祖父が創業した会社に1986年、24歳の時に入社し、職人として腕を磨きました。現在は社長として20人ほどの職人たちをまとめ、桶や樽、木風呂などのほか、養蜂用資材も制作しています。