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江戸時代の頃に始まった「杜氏制度」という独特の形態で行われている日本酒醸造は、長年の経験と勘が重視される職人技として受け継がれてきました。杜氏は、一般的に下積みとして経験を積んで評価をされた者がなれる蔵人の監督者であり、酒蔵の最高製造責任者です。酒造りの知識や経験、味を見極める「利き酒」の力だけでなく、大勢の職人をまとめる統率力が求められます。

酒を造る手順

日本酒は基本的に米と水を発酵させて造られています。発酵とは、酵母が糖分を食べてアルコールを出すこと。しかしながら、米には糖分がないため、米の主成分であるデンプン質を麹(こうじ)の作用によって糖分に変える活動と、酵母が糖分をアルコールと炭酸ガスに変える活動が同時に行われる「並行複発酵(へいこうふくはっこう)」という、非常に複雑で巧みな製法で造られています。

1. 精米(せいまい)

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酒造りには食用の米のほか、酒造りに適した性質をもつ「酒造好適米」が主に使用されます。酒造好適米は、食用の米に比べて雑味を生じさせるたんぱく質の割合が低いうえに大粒で、麹菌の菌糸が中に伸びやすく、強い酵素力・糖化力がある麹ができます。また、中心部に白く不透明で発酵を行いやすい心白(しんぱく)と呼ばれる部分があります。

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この酒造好適米の玄米の外側を削る作業が「精米」です。米が砕けないように慎重に削り落とし、洗練された味を引き出す準備をします。

2. 洗米(せんまい)と浸漬(しんせき)

ご飯を炊く前に米を研ぐのと同じように、精米した白米に残っている糠(ぬか)を水で洗い流します。その後、水に浸す「浸漬(しんせき)」を行います。浸漬時間は、米の品種や精米具合で異なります。米の吸水量はできあがりの品質に影響を与えるため、この作業で失敗をすると、その後の工程の全てが台なしになってしまいます。そのため、浸漬は経験をもとに細かい調整が必要とされる繊細な作業です。米に適量な水分が含まれたら、水切りをして、翌日の蒸米に備えます。

3. 蒸米(むしまい)造り

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適切な水分を吸水させた米は、米と水を同じ釜に入れて「炊く」のではなく、甑(こしき)で下から蒸気を発生させて「蒸す」ことで、麹による糖化作用を受けやすくします。蒸した米は適度な固さを保ち、表面がベタベタせず、食べるとプチプチとした歯ごたえがあります。この蒸し上がった米は冷却されて、ひとつは麹(こうじ)造りに使われ、もうひとつは「酒母造り」や「醪(もろみ)の仕込み」に使われます。冷却は自然冷却のほか、放冷機が使われる場合もあります。

4. 麹(こうじ)造り

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1日目
蒸し上がった米を高温多湿の麹室(こうじむろ)に運び(引き込み)、床(とこ)と呼ばれる台に広げて水分を飛ばし、31℃前後に冷まして麹カビの種=種麹(たねこうじ)を振りかけます(種付け)。その後、よくもんで布でくるんで保温し、麹菌(こうじきん)を繁殖させます。麹菌は30℃を下回ると繁殖力が弱まるため、室温は常に28〜30℃に保ったうえで、一晩寝かせます。その間、米の温度と水分を調整しながら米をまた広げ直し、米の塊を一粒ずつバラバラにする「切り返し」という作業を行います。なお、納豆には麹菌より強い繁殖力がある枯草菌が繁殖しており、柑橘類の皮には乳酸菌がいるため、仕込みの期間中、杜氏や蔵人は納豆やみかんを食べません。

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2日目
朝、米の塊をほぐし、温度が上がりすぎないよう、小さな木箱に移します(盛り)。その後、数時間ごとに麹を薄く広げて水分を飛ばしながら、麹菌の繁殖が均一に進むように米をまぜる「仲仕事(なかしごと)」と麹をさらに広げる「仕舞仕事(しまいしごと)」を行います。

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3日目
麹菌をふってから48〜65時間後、麹室から麹を出して「出麹部屋(でこうじべや)」に移し、広げて熱を取る「出麹」を行います。麹はカビの一種で、繁殖が進むと最初は栗を焼いたような匂いがし、次第にシメジやマツタケのような香りになります。こうしてできた麹は、「酒母(しゅぼ)造り」や「醪(もろみ)の仕込み」に用いられ、米のデンプン質を糖分に変える役割を果たします。

5. 酒母(しゅぼ)造り

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酒造りの主役である微生物「酵母(こうぼ)」を育てる工程です。小さなタンクに、仕込み水と酒母用の麹、酒母用の蒸米を入れて混ぜ合わせ、酵母と、酵母をほかの雑菌から守ってくれる乳酸を加えて適温に保ちます。するとタンクの中で麹が作り出した糖分を食べて酵母は仲間を増やしていきます。このように酵母を大量に増殖させたものが酒母です。

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酒母は毎日混ぜながら少しずつ温度を上げて、12~14日ほどかけて完成します。最近は泡が発生しない「泡なし酵母」も生まれています。泡なし酵母は泡がない分、たくさん仕込めるというメリットがあります。

6. 仕込み

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添仕込み(そえじこみ)
タンクに酒母を移し、そこに原料(麹・仕込み水・冷やした蒸し米)を加えます。これを「添仕込み」といいます。酒母をいきなり大きなタンクに移すと温度が下がって酵母が弱ってしまうので、この工程では酒母造りで使用したものより少しだけ大きめのタンクを使用します。そして、翌日は酵母の増殖をよくするために保温し、仕込みを休ませます。この作業は「踊り」とよばれます。

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仲仕込み(なかじこみ)
3日目は、添仕込みで仕込まれた醪(もろみ)=日本酒になる前の発酵中のものを本番仕込み用のタンクに移し、添仕込みよりやや多めの原料を加えます。醪は数時間経つと、蒸した米が水分を吸い、発酵をはじめた酵母が出す炭酸ガスでふくれるので、ガスを抜くために櫂(かい)を入れてよく混ぜる「荒櫂(あらがい)」を行います。この際、櫂棒で麹を潰さないようにやさしく櫂入れをします。

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留仕込み(とめじこみ)
4日目に全体の原料の半分を加える「留仕込み」を行います。このように原料を一度に加えるのではなく、3回に分けて加えることを「三段仕込み」といいます。添仕込みは酵母を増殖させるために保温しながら行いますが、工程が進むにつれ、徐々に温度を下げて仕込みます。

7. 発酵

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三段仕込み後に醪の表情は日々変化し、麹が蒸米のデンプンを糖分に変え、酵母が糖分をアルコールに変えていきます。糖化と発酵が平行して進む「平行複発酵(へいこうふくはっこう)」と呼ばれる発酵は、ほかの酒にはない日本酒の大きな特徴です。こうして、温度管理に気を付けながら、20~40日間、発酵させます。

8. 上槽(じょうそう=搾り)

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清潔に保たれた槽場(ふなば)=搾り場で、搾りのタイミングを迎えた醪(もろみ)を搾り、酒と酒粕に分離させます。圧力をかけて搾るアコーディオンのような形の搾り機を用いるほか、醪を少しずつ布の袋につめて舟の形に似た槽とよばれる中に並べ、自然の圧力で搾る「ふなしぼり」という方法もあります。手間も時間もかかりますが圧力をかけないほうが醪にストレスがかからないため、なめらかで香りが高い日本酒が生まれます。また、醪を搾った搾りカスが「酒粕(さけかす)」です。こうして2ヶ月かけて日本酒が誕生します。

9. 濾過(ろか)・熟成

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搾った酒にはまだ酵母や酵素が残っているので濾過(ろか)をし、殺菌と貯蔵中の品質劣化を防ぐために加熱(火入れ)を行って、出荷時の瓶詰めまで貯蔵します。

10. 瓶詰め(びんづめ)

瓶詰め後キャップをし、ラベルを貼って出荷します。

酒を造る手順

なぜ寒い時期に仕込むの?
寒い時期に仕込む
寒い時期(10月後半頃から3月くらいまで)は雑菌が繁殖しにくく、暑い時期よりも温度調整が効くという理由が挙げられます。昔は温めるよりも冷やす作業のほうが大変だったのです。また、原料の米が秋に収穫されるのも理由のひとつ。さらに、昔は冬の農閑期に、冬の間だけ酒蔵で働く蔵人(くらびと)を集めやすかったという理由があります。なお、寒い時期に仕込むことを「寒造り(かんづくり)」といいます。
酒蔵に吊るされている杉玉は何?
寒い時期に仕込む
造り酒屋の軒先に吊るされているスギの葉を集めてボール状にした「杉玉」は、新酒ができたことを知らせる合図。吊るされたばかりの杉玉はまだ青々としていますが、やがて枯れて茶色になってきます。この色の変化で、新酒の熟成具合を知ることができます。
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