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長年ものづくりの世界に携わってきた名匠に、
ものづくりの魅力やこだわりを語っていただくスペシャルインタビュー。
宿場町の風情が残る東御市の海野宿で「ガラス工房 橙」を営む寺西将樹さんは、
30余年にわたり吹きガラス一筋でものづくりに勤しんでいます。
どのような思いをもって作品を作り続けているのか語っていただきました。

日常を淡く彩るガラス作品づくり

「ガラス工房 橙」は、グラスやお皿、花瓶といった日用使いの商品から一点物まで、幅広いガラス作品を製造する吹きガラス工房です。日常に溶け込む使いやすさやシンプルなデザインを意識しながら、一つひとつ手作りしています。

私たちの工房は、江戸時代に北国街道の宿場として開設された海野宿の一角にあります。この場所に由来するものを作りたいと思って、試行錯誤の末に生まれたのが「くるみガラス®」です。東御市の特産物である胡桃の殻を燃やした灰をガラスの原料と混ぜ溶かすことで、出来上がった作品は光に触れると淡くやわらかな緑を発色します。段々と注目が集まってきて、現在では地元をはじめ全国各地の方々に親しんでもらう商品になりました。

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ものづくりはいずれも段取りが大切ですが、吹きガラスというのはとくにシビアかもしれないですね。溶解炉のなかで溶けたガラスを竿に巻き取った瞬間から、作業を中断することができません。ガラスの温度変化を読み取りながら、完成まで正しい動作を続けていきます。

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1150℃の溶けたガラスを吹き竿に巻き取り、息を吹いて膨らましていきます

吹きガラスってチーム仕事なんですよね。グラス類や小物であれば一日に40から50個作っていますが、とても私一人ではこなせません。製作の手伝いや仕上げ、検品をしてくれるスタッフがいるから、一定の数を毎日作れています。みんなが関わって生まれた作品なので、私個人ではなく「ガラス工房 橙」の名前を表に出して販売しています。

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寺西さんの合図なしにアシスタントさんがサポートに入る様子は、まさに阿吽の呼吸です

お客様との距離を大切にしたい

学生時代から漠然とものづくりの世界に興味があって、手仕事に関する雑誌を読み漁ったり、ときには製作の現場を覗ける体験教室などに足を運んでいました。そのなかで惹かれたのが吹きガラスだったんです。自分の知識や想像になかった作り方をしていて、その“わからなさ”に魅力を感じました。

当時は吹きガラスを専攻できる大学はほとんどなくて、学外の吹きガラス教室に通って勉強しはじめました。本格的にガラス工芸の世界に入ったのは大学3年生の頃ですね。ガラスメーカーでのアルバイトをはじめて、卒業後にそのまま就職。以来、ガラスに関わる仕事をずっと続けています。

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同じくガラス作家である妻との結婚を機に、独立して地元である長野県に帰ってきました。二人で工房を立ち上げるにあたって意識したのは、作品を手にとってくれるお客様との距離感です。それまで勤めていた工房も販売店が併設されていて、自分たちの作った商品がどんな人に使われるか、どんなものが求められているか肌で感じられました。お客様の声に耳を傾けられるよう、観光客も訪れる海野宿の長屋を紹介してもらい、自分たちで改装して工房兼ギャラリーを構えました。何度も足を運んでリピートしてくださったり、作品に対して感想をいただいたり、「もっとこうしてほしい」と要望をもらったりと、工房の隣でお店を営んできたからこその喜びがありますね。

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窓から差し込む光が陳列されたガラス作品に反射して、店内全体にやわらかな色が広がります

ご納得いただけるものを作るためにも、お客様との会話を大切にしています。たとえばグラスのオーダーを受けたら、どのくらいの容量がほしいか、どんなシーンで使うのかなどを聞きながら、普段遣いするのなら足は短いほうがいいとか、こちらからも提案をしていきます。お店に並べるだけではわからない作品の使い心地を実感してもらいたいので、工房で作ったグラスやお皿を使ったドリンクやケーキを提供するカフェも運営しています。

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ものづくりを続けるために、繰り返し作り続ける

ものづくりの魅力を挙げるなら、やはり作品が出来上がったときの達成感ですね。これは作った本人たちにしか味わえません。ただ、自分が作りたいものを作っていくためには、ちゃんと食べていける土台を築く必要があります。同じものを作り続ける職人仕事をただの作業だと感じてしまったら、ものづくりは途端につまらなくなってしまう。この世界で長く仕事をしていくためには、「ものづくりが好き」という気持ちのまま、飽きずに飽きずに、ずっと続けられることが肝心です。飽きないコツですか? 毎日続けることですね。とにかく繰り返していくと、単調な作業におもしろさを見出す余裕が生まれてきます。あとは、やらざるを得ない環境に自分を追い込むのも大事ですね(笑)。

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苦しいながらに続けていくと、自分の仕事を認めてくれる人が現れます。作り上げた達成感に加えて、お客様が手にとってくれる喜びがついてくる。自信がついてくる。さらには、いいものを作らなければならないという義務感が生まれてくる。作り続けていけば、飽きずに続けていく理由が増えていくんですよ。これからものづくりの世界に飛び込む方には、とにかく「続けなさい」と伝えたいです。

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寺西将樹(てらにし まさき)
1969年、長野県上田市(旧丸子町)生まれ。東京造形大学を卒業後、横浜のガラスメーカーへ就職。1999年、独立とともに帰郷。妻の真紀子さんとともに「ガラス工房 橙」を開業する。日本クラフト展、伊丹国際クラフト展、あわら市 酒の器展、日本民芸館展入選

ガラス工房 橙

住所:長野県東御市本海野1071-3
電話:0268-64-9847
URL:https://glass-studio-daidai.net/

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